シークエンス7

  • 0007 福袋

    福袋

     恋も仕事もだるいな。弛緩した気持ちとともに仕事始めを迎え、いや恋はだるくないわごめんごめん、新年早々の満員電車でゼロ距離になったおっさんの禿頭にフランシスコ・ザビエルを感じてアーメンアーメン思っていると切り忘れていたスマホのアラームが鳴り響いて節操もなく舌打ちをかましてしまった。男の人ってこういうとき痴漢と勘違いされる恐怖と戦わなきゃいけないのかなこえ〜お疲れさまです〜とか考えつつ肘やら二の腕やらを周囲の乗客にぶつけながらスマホを取り出してアラームを切ったついでに画面を見るとイランだとかトランプだとかギャグみたいな言葉がニュースになっている。ドナルド・トランプって鞣された革みたいな顔してんね。一昨日恋人に言ったことを思い出す。良い死に方しないよ。良い死に方って何。さあ。
     赤坂見附で銀座線に乗り換えて表参道。赤坂見附で銀座線に乗り換えて表参道。いまの職場に入社したてのころは、目標をセンターに入れてスイッチばりに繰り返し繰り返しぼそぼそ呟きながら満員電車に揺られていた。この世でもっとも忌むべきもの、それは乗り換え、だがモノは慣れ。サイファーの輪の中にいるみたいな気持ちでおざなりに韻を踏んでツカツカと歩いていく。表参道駅のB4出口から地上へ出たところの十字路、みずほ銀行のあたりでティッシュ配りからティッシュを受け取って、信号をふたつ越えたあたりで鼻をかもうとしたらそれはティッシュではなくて、いやポケットティッシュと同じ包装ではあるのだけど、ティッシュを取り出すためのミシン目がある面には小さく「福袋」と印字されていてホワッツ?中には名刺大の紙の束が入っていた。ミシン目を破って取り出してみると一枚一枚に11桁の数字が印字されていて、最初の3桁から察するにそれは誰かの携帯電話番号である。ホワイ?
     心機一転だの新年の抱負だのクソ喰らえっていう心境でいて実際直属の上司である林田からクソみたいなパワハラを喰らっているクソはわたしなのだがそれもまた日常だ。日常を終えて職場から帰路につくわたしはポケットから今朝もらった非日常を取り出した。「福袋」、これだってクソ喰らえだばーか。ばーかばーか。わたしはティッシュが欲しかったんだ。
     50枚ほど入っていた紙の中からてきとうに3枚ほど選んでそこに書かれた番号に電話をかけてみてわたしはこれが新手のテレクラだということを知る。時代の逆行なのか先行なのかわかんねえよ。家に帰って居候中の恋人におもろいもんあったで〜と雑な関西弁で「福袋」を放り投げて恋人はそれを律儀に受け取って後日その福袋テレクラで知り合った男性と浮気してその流れで実は俺バイなんだ〜ってカミングアウトされてわたしはあっさり捨てられる。ファック(二重の意味で)。