シークエンス1-5

  • 0001 姉

     平子ひらこはたった一人の妹に電話をかけてみたくなった。ここではない、どこか。たとえば、遠い異国の地で。平子にとってそれはとても切実なタスクであるような気がした。思い立ってからの平子の行動は早く、職場の非常階段兼喫煙所で、細長い雑居ビルの窓々を眺めながら頭の中で飛行機を飛ばし、ベタだけどフランスかな、パリ、パリだし、フランスだな、一本目の煙草を吸い終わるころには行き先を決めていて、その日の帰りのバスの中、エクスペディアをダウンロードして、値段の比較もそこそこに直行便のチケットを押さえた。翌日、会社には有給の申請を出した。断られた。辞表を書いた。上司である林田のデスクに辞表を置き、ホワイトボードに貼られた「渡辺平子」の下に「直帰」のマグネットを貼り付けた。「フーテン」と書かれた紙が平子の頭の中でひらひらと舞う。フーテンともまた違うよな。そもそもフーテンってなんだ? 帰りに寄ったカレー屋でサフランライスをおかわりしてから平子は思った。笑みがこぼれ、ネパール人が微笑んでくる。ラッシーもください。