シークエンス1-3

  • 0058 カーセックス(9)

    カーセックス(9)

     気づくかな。いつ気づくかな。と、薄明かりの中かすかに見えるクラハシの鼻筋や涙の膜で光った眼を見ながら、コウダは思っている。何気なく停めた甲州街道沿いのTimesの、隣に建っているマンションの、最上階。仰向けになっているコウダの視界の、その端に見える角部屋の、ベランダで、立ちバックをしている二人組の姿があった。いまこの地球上で幾千の生命が産まれ、そして死んでいるのと同じように、いまこの地球上では幾万の生命がその魂に触れ合い、濡れ合い、恐れ合い、悦び合い、解り合い、触れ合っている。そのことを、あの角部屋のベランダで、声を殺して動き合っているあのふたりは、わたしを通して世界に証明している。そのことを思いながら、クラハシの胸を、顔を、髪を、その背後の車の天井を、コウダは見つめる。改造されたバイクのマフラー音。徐行するパトカー。どこかへ、なにかを運ぶトラック。クラハシの呼吸。自分の呼吸。あの角部屋のベランダで、声を殺して、それでもお互いには聞こえている、呼吸と呼吸。気づくかな。いつ気づくかな。クラハシのペニスが拍動している。コウダは手を伸ばして、クラハシの頬に触れる。