名付けたものどもを追う道筋を歩きながら、

  • 0064 光景/後景(2)

    光景/後景(2)

    「いやびっくりしたよねえ……。専務なんて誰よりも早くメット被ってたからね」
    「はやかったですよねえ」
    「もうみんなミーティングどころじゃないから」
    「もしもし、も……。もしもし」
    「え、ちょっとほんとやばいっぽいよ」
    「だめだ、ドコモはだめだ」
    「ソフトバンクも無理っぽいっす」
    「Twitter? なんて?」
    「あ、もしもし、うん大丈夫。え、もしもし?」
    「いや暑い。あっつい」
    「やっぱauが最強なんだよ。これではっきりしたよ」
    「私そのときお手洗いにいてさあ〜」
    「ではその件は後日」
    「まぁじで〜? やっば〜」
    「ああもういいや! 公衆電話どこ!?」
    「電車止まってるんだってさ」
    「全滅?」
    「全線全滅」
    「震源地どこ?」
    「あーなんかすごい脇汗出た」
    「いやうちの携帯つながってるからね」
    「いまのうちにマックとか行ったらだめかな」
    「いいからちょっとここにいろ」
    「ウィルコムなら繋がるんじゃね」
    「なに? なに?」
    「そこの人こちらへ! 落下物に気をつけて! 前へ!」
    「福島」
    「うん。うんいま青学の近く」
    「俺久しぶりに実家の両親に電話したよ」
    「午後の予定どうしましょうかね」
    「あそこのビル見た?」
    「一瞬、ほんとにあ、終わった、って思ったわ」
    「萎え」
    「こういうときどういう顔したらいいかわかんなくて気まずいよね」
    「福島ぁ?」
    「本がばっさばっさ落ちてきてほんとあせって」
    「ちょ、やばいやばいタイムラインやばいやばい流れんのちょーはやい」
    「7……」
    「食器大丈夫かなあ」
    「うわこれ今日帰れんの?」
    「やっぱネズミとかさ、こういうの察知するんかな」
    「鳥肌たってきた」
    「携帯電池きれそう」
    「福島ってどこだっけ」
    「群馬の横だっけ」
    「コンビニ行こう。はやく。行ったほうがいいよたぶん」
    「ほんともうドコモなんなの!!」
    「あ、どうもどうもすみません、お疲れ様です」
    「眠い」
    「まぶしい」
    「あー電池切れた」
    「とっさだったよ」
    「『【緊急】電話の使用を極力控えてください。被災地の方に少しでも回線を開けてください』だって。Twitterで」
    「メットをこう。バッて。バッ」
    「いえいえとんでもない」
    「もう徹夜三日目なのにこれはきついわあ」
    「今日?」
    「なーんかもーつかれたよー」
    「さっきはありがとうございました」
    「あうんの呼吸ってやつでしたね」
    「はあ」
    「なんでこんなときに非通知着信がくるんだよ」
    「あれ、あれ無い、あれ無いあれ無い財布がない……」
    「すげえな、もうデマとか出てんのな」
    「東北? まじで?」
    「ええっ? なにい? 聞こえないんだけど!?」
    「部長汗やばいっすね」
    「いつかいつかとは思っていたよ」
    「いや不安を煽るんじゃねぇ」
    「今度はauが繋がんねえじゃん」
    「ビルまだ揺れてる」
    「なえぽよじゃん」
    「なんもねぇ〜」
    「渋谷でお泊りとか」
    「あああああ」
    「カラ館もう満員。相部屋ならいけるって」
    「ローソンなんもなかったんやけどさ。文房具の試し書きんとこに『さしすせじしん たちつてつなみ』って」
    「いやでもほんとにありがとうございました」
    「なえるわ」
    「ぐらっときたね」
    「人いすぎマジ」