
5月の一週間/今朝を起きて

5月10日
起きたら朝。XのDMに仲西さんから、『ホームページ』販促企画へのお誘いが届いていた。「喜んで参加させていただきます!!」と二つ返事で引き受けたが、何をどうするかはこれから考える。使うか使わないかはわからないが、日記を書いておくことにする。
録画していた『あかね噺』の直近の回やら、U-NEXTで『ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!』やらをだらだら観ていたら、家の向かいにある小学校から、どんどんどんどん、と太鼓の音が聞こえてきて、ずっと鳴っている。何かの催しだろうか。うるさい、というほどではないが気は散るので、これ以上の動画視聴は断念して、予定より早めに家を出た。外は快晴。もう夏に入りますよ~、という雰囲気。外から校門越しに見える範囲では、小学校の中にはだれもいない。どんどんどんどん。
山手線に乗って上野駅で降りた。時間があるので徒歩で浅草方面へ向かう。法被を着た人々の神輿を担いだり太鼓を叩いたりの列とすれ違う。どんどんどんどん。もうすぐ三社祭か。
浅草ROXのサンマルクカフェに入って、残り数十ページだった速水健朗『機械ぎらい 機械音痴のテクノロジー史』を最後まで読み終え、ポメラでこの日記をぽちぽち打ち込んでいたらNさんからLINEがくる。怪談のトークイベントへ行ったのだけど、出演者のひとりのトークがかなり下手くそだった上、準備不足も露呈していて「おもんなかった!」と怒りの報告。Nさんは努力や工夫が見えない「おもんなさ」に厳しく、文字だけでも伝わる激昂っぷりが(Nさんには悪いが)ちょっと面白い。
N その怖い話の中で、東京の○○ってカフェが出てきたんですけど、
あれ?と思う。○○という店名に見覚えがある。検索したところやっぱり、僕が以前、仕事で求人広告の制作を担当した店だった。「未経験歓迎!」「学生さん多数活躍中!」「インバウンドのお客さんが多く、語学力、接客スキルが身につきます」などと書いた覚えがある。そこで昔、殺人があったらしい。
\ WE! SAY! ” IRASSYAIMASE ” ! /
\ ウィー!セイ! ” イラッシャイマセ ” ! /
外へ出ると大通りに設置されたスピーカーから曲が流れてきて、こんなかけ声を繰り返していた。これあれだ、「Sex Sex Sex on the beach」と同じリズムだ、などと考えながら浅草東洋館の前で、開場を待つ列に並んだ。
浅草にはちょくちょく来るが最近は木馬亭に行くことが多く、東洋館に入るのは初めて。階段からロビーにかけて芸人関連の展示物があり、立ち止まってじっくり見たかったが、観客が多くて混雑していたため断念。席は前から3列目のど真ん中で、かなりいい位置。
「ヤーレンズと太福の演芸会」は今回が第一回で、今後ライフワークとして続けていきたいとオープニングで説明がある。ゲストの街裏ぴんくさん、三遊亭萬橘師匠含め、ネタは4組ともめちゃくちゃウケていた。そのあとのジェスチャー伝言ゲームのコーナーも楽しかった。お笑いライブでありがちな企画コーナーを、落語家・浪曲師も交えてやってみよう、というコンセプトなわけだが、意外にも萬橘師匠がヤーレンズやぴんくさんと張り合うぐらいにボケまくって、ものすごい盛り上がり。「サウナ」というお題に対して、すぐさま着物を脱いで肌着姿になる萬橘師匠のサービス精神たるや。
終演後、スマホの電源を入れたら、NさんからまたLINEにメッセージが届いている。「おもんなさへの怒りを鎮めるために、やけ食いしました」という一文と共に、焼肉の写真と、ラーメンの写真。面白い。
5月11日
起きたら朝。カーテンの隙間から見える空が青い。部屋が寒い。眠くて出勤直前まで立たない。外はちょっと暑い。
通勤電車で近くに立っている女性の大きなリュックサックから、猫の鳴き声がした。にゅお、にゅお。
通勤電車と昼の休憩時間で、友田とんさんの『今を生きるための赤瀬川原平=尾辻克彦』を読了。赤瀬川=尾辻の活動・作品を通じて、製作について思考を巡らせた文章。(友田さんから見た)赤瀬川の思考・行動の鍵「内に居ながらにして」が「今を生きるための」鍵としても機能するのであれば、それは生きることを「今」という”時間軸”から「内(に居ながらにして)」という”空間軸”へと捉え直すことなのかもしれない。時間軸を生の基準とした場合、複製することも、フィクションを作ることも、見立てたりひっくり返したりして考えることも、タイムパフォーマンスの悪さを理由に、容易に斥けられ得る。しかし、生を空間軸から捉え直すことで、そこに思わぬ何かが生起したり発見されたりするのではないか……。
と、ぼんやり考えながら会社に戻って、求人広告の原稿作成を進める。給料と時間のことばかり書く。
5月12日
起きたら朝。ベッドに横たわりつつ、録画していた『銀河の一票』第4話を観る。野呂佳代と岩谷健司が同じ画面に揃うと、「ゴッドタンの”私の落とし方発表会”だ……」と思う。
「売り上げが数字として出る営業と違って、うちの部署は成果が見えにくいから、業務に対しての評価がされにくかった、ですよね? で、今期からは数字にあらわれない部分も評価できるように、基準作り、というか、システム作りをしていきたいわけです。この部署の人たちの社内での評価をはっきりさせて、皆さんの頑張りをお給料や待遇に還元していくためにも、それは役立つはずです、よね? その第一歩として、まずは部署内の皆さんにアンケートを取って、率直な意見を聞き、現状を把握していきたいと思ってるんですよ」
社内の組織改編で新たに上司になった人が個人面談でそんなことを言うので、率直な意見を話し、現状を把握してもらった。
新たに上司になった人は、頭を抱えていた。
今日はスズキロクさんの『よりぬきのん記2025』を読んでいた。相変わらず素晴らしいのんきさ。今までよりも、妻・夫以外の人物が描かれる回が増えた気がする。
巻末の松波太郎による解説ならぬ診察も面白かった。のんきなタッチの漫画ではあるが、その中にはたしかに不調も描きこまれている。それを見逃すことはできないが、意識しすぎると今度は読んでいるこちらも硬直してしまう。そのこわばりからの開放までもを記録したようなテキストトト……。
5月13日
起きたら朝。すっきり晴れているので、えっちらおっちらと動いて、家を出る前に洗濯物を干したのに、夕方からゲリラ豪雨。ひどい!
昼は晴れていたので、ランチ休憩のときには会社の近所の公園で読書をした。今日から読み始めたのはSaku Yanagawa『スタンダップコメディ入門 「笑い」で読み解くアメリカ文化史』。まだ序盤だけど、基礎知識に加えてコメディアンたちのキャリアアップについての解説があって面白い。
帰宅後は雨に濡れた洗濯物をがっかりしながら取り込んで、洗い直して部屋干し。山田航『さよならバグ・チルドレン』を読んだ。「たぶん親の収入超せない僕たちが」の短歌のイメージがあったので厭世的な青年像を持っていたが、実際に読んでみると思ったより爽やかな抒情性もある。
5月14日
起きたら朝。横になった状態でテレビをつける。宝くじのCMにも転職サイトのCMにも出ている鈴木亮平。
新人さんの研修として、仕事の流れや、業務に臨む姿勢をレクチャーする。
「大切なのは、あなたが実際にその場へ出向いて感じたこと、気づいて、考えて、あなただからこそ得られた情報を、会社へ持って帰ってくることです。誰が行っても同じような情報だけしか得られないなら、他社との差別化はできないし、これからの時代は”この程度ならAIに任せたほうがマシだ”となりかねない。僕らがAIに対抗できる点があるとすれば、それは、”実際にその場に居ることができる”、それぐらいなんですよ」
この話は今回の研修から新たに足した部分。
5月15日
起きたら朝。
会社に着いたら、僕の席周辺のカーペットがぐっしゃぐしゃに濡れている。昨夜のうちに何かの拍子でウォーターサーバーが水漏れを起こして、その水が近くの僕の席まで流れてきたらしい。とりあえずベランダ兼喫煙場所へウォーターサーバーを運びだし、僕の席回りのカーペットも剥がして一緒に外へ出して干す。この会社に入って7年近いが、カーペットの下の床面を初めて見た。
特にこれといった仕事は無かった。
今日は午後休にしていたので、13時半には会社を出た。
Nさんが舞台公演を観るために東京へ遊びに来ていて、「公演は明日だけど前乗りするので遊びましょう」と約束をしていた。
合流後、東京をあちこち散歩することに決めて、Nさんが行ったことがないというので秋葉原方面へ歩く。「あっちにあれがあって……」と道案内モードで説明しようとすると、「Ryotaさん、東京のガイドはしなくて大丈夫です。私は今日はぶらぶら散歩して、Ryotaさんと雑談する日なんです」とNさんが言う。実際に会うのが久々だから、余計な張り切り方をしてしまった。少しずつ雑談モードへと移行し、近況や、街歩き中に見えるあれこれについて喋った。
神田を経由して東京駅まで歩いたところで電車に乗り、新橋の飲み屋街へ。居酒屋に入って、カウンター席にふたりで並び、酒を飲みつつ「この食材は俳優で例えると誰か」「この俳優は食材で例えると何か」という話をずっとしていた。
俳優の●●●●って、食材で例えると何だと思いますか。せーので声揃えて言い合いましょう。行きますよ、せーのっ!
「しめじ!」
「エリンギ!」
全食材の中からキノコ類でかぶるのは、このふたりの気が合っているのか、その俳優がキノコすぎるのか……。
ごきげんな気分で外へ出て、新橋駅前で開かれていた古本市であれこれ本を物色しつつ、次はどこへ行こうか話していると、「さっき一軒目どこに入るか探しているときに、Ryotaさんが”もんじゃとか”って言ったじゃないですか。あれ聞いてから、ずっとうっすらもんじゃ焼き食べたいんですよね」とNさん。じゃあ二軒目はもんじゃ焼きだ、と新橋周辺の店を巡ったがどこも満席。
いったん新橋を離れて銀座方面へ。夜の銀座通りでは、サックスの路上ミュージシャンを別々の場所で2人見かけた。
有楽町駅へ着くと、駅前のビル内にもんじゃ焼きの店を発見。ラストオーダー前に滑り込んで、念願のもんじゃ焼きにありついた。
有楽町駅で解散して、帰宅中にNさんからLINEがあり、静止画でもわかるくらい不器用なヘラさばきでもんじゃを焼く僕の写真が送られてきた。不器用だけど楽しそうな顔をしている……、しまった、Nさんが楽しそうにしている写真を撮りそびれた!
5月16日
起きたら朝。昼から下北沢のLIVEHAUSで「シシジュウロクノ2010」。佐藤あんこ、シシジュウロクの二組のライブで、オープニング・転換・クロージングはHercelotによるDJが入る。佐藤あんこは赤いつなぎにキャップ姿で登場。いつもそのスタイルなのかと思ったら新衣装らしい。触ると音が出る光る輪っかみたいなマシン(アレなんていうんですか?)と、喋ると声の波形と文字起こしがリアルタイムで表示されるディスプレイ付きマイク(アレなんていうんですか?)という、謎のガジェットを使ったライブで「変なものを見た……!」という衝撃が大きい。光る輪っかをマレットで叩いたら音が出たのが妙に可笑しくて「えーっ!」と声が出てしまった。
カンノさんとは「さめない社交」きっかけで出会って最近仲良くなったのだけど、シシジュウロクのライブを観るのは初めてで、かっこよくて面白い。カンノさんはライブ後のクロージングDJの間も動きまくって場を盛り上げていて、フロントマンとしての筋力を感じた。僕もDJの最後までいて、酒飲んで外へ出たら、まだ15時。
新宿に移動。新宿歌舞伎町春画展WA「葛飾北斎・渓斎英泉 艶くらべ ―歌舞伎町花盛り―」を観た。会場は新宿歌舞伎町の能舞台と、休業中のホストクラブ。浮世絵の展示は何度か行ったことがあるが、春画をちゃんと見たのは初めて。性器のデフォルメ具合が大げさだったり、陰毛を一本一本描き込むパターンと淡くぼやかして描くパターンがあったり、なんだか変な体勢で男女が絡み合っていたりする。どアップで片方のページに男性器、もう片方のページに女性器を描いた見開きがあって唖然。お土産コーナーを覗くと、もちろんどのグッズにも春画がプリントされている。奇妙な迫力。
ラブホ街を抜けて東新宿駅から東京メトロで池袋へ。としま区民センターで「志ら乃和室会」を観た。立川志ら乃師匠の勉強会的な位置づけの落語会。のの一さんが「真田小僧」で、前回見た時よりもシンプルにブラッシュアップした印象。志ら乃師匠は「道灌」「馬の田楽」「ずっこけ」の三席。まったりとした雰囲気の楽しい会だった。
帰りの電車内でスマホを開くとNさんからLINE。今日の舞台の感想をあれこれ聞きつつ、帰路につく。
―――――


【短歌】今朝を起きて 蜂谷希一
まず人が歩くうごきを指でする「世界」がお題のジェスチャーゲーム
水のことばかり言ってるマグネット取り残されていますかぼくは
決壊をゆるされたダム築きつつもんじゃ焼きつつ話す将来
やけ食いのレシート長く包帯にならなくたっていいつるつるだ
消えそうな光たちにも見せたいな事故物件の蠅が素早い
部屋干しが拍手笑いで歓ばれすぐ打ち切りになるシットコム
あたらしい輪っかのカラーバリエーション天使はやけに赤を欲しがる
四次元の猫がぼさっと落ちてきて身震いすれば飛び散る時間
めくるたび倒れる春画 2で割ってふたつ余った手に行き場なく
なめらかにこわばるような描線であなたは今朝をふたたび起きた
Ryota(りょーた)
1992年生まれ。東京都在住。これまでの制作物にZINE『雑談・オブ・ザ・デッド』(柿内正午さんとの共著)、『群像一年分の一年』など。「蜂谷希一」のペンネームで短歌を作ることもある。

蜂谷希一(はちやきいち)
1992年生まれ。東京都在住。未来短歌会・笹公人選歌欄「抒情の奇妙な冒険」所属。2024年「U5Htanka」グランプリ受賞。ハンドルネームの「Ryota」で呼ばれることもある。
