0084 ハイカラ

ハイカラ

 サンドイッチ作る。サンドイッチ食べる。サンドイッチなくなる。サンドイッチ食べたい。サンドイッチ作る。サンドイッチ食べる。サンドイッチなくなる。サンドイッチ食べたい。サンドイッチ作る。……。
「が、この1ヶ月続いた」
 画面におばあちゃん、おかあさんの顔があって、映っていて、おばあちゃんは笑って、おかあさんは心配そうに苦笑いしている。
「あんたそんなパンの人だったっけ」
「いいねえ。ハイカラなお母さんになるよ」
 それで、おかあさんには「ごはんの人だったけどなんかパン目覚めた、最近」と応えて、おばあちゃんには「ハイカラって言葉、いいね。ありがとう」と応えた。わたしたちはZOOMで繋がっている。
「それであんた今日もサンドイッチだったの?」
 心配そうだ。おかあさんは心配するのが得意だ。
「うんそう、パンの上に海苔とスライスチーズ、その上に焼いたししゃも、でその上にパン、サンド。美味しかった」
「ハイカラだねえ〜」
 今日のおばあちゃんはやたらハイカラって言う。離れていてもZOOMでこうして話せる、会っているかのように振る舞える、その圧倒的な視覚情報につられてハイカラという単語がおばあちゃんの脳裏で蠢いているのか、単にハイカラという言葉にハマっているのか。おばあちゃんくらいの歳になっても、なにかひとつの単語に鋭敏にハマったりするものなのだろうか。だとして、わたしはそうなれるのだろうか。
「それは朝?昼?」
「お昼。っていうか朝食」
「ちゃあんと3食にしたほうがいいよ」
「昼なんだよ、起きたらもう。わたしの朝は昼なの」
 おかあさんの止まらない3食奨励に応答しながら、わたしはどんどん煙草の口になっていった。吸いたい。でもふたりの前で吸ったら、めんどうくさいことになる。おかあさんは怒るだろうし、おばあちゃんは切なげな顔をするだろう。それとも、ハイカラねえなんて言ってくれるのだろうか。ハイカラなお母さん。ハイカラなお母さんってなんだ。そもそもお母さんになれるのかもわからない。なるつもりは、いまのところ、ない。
「それで昨日の夜はなに食べたの」
「だから〜、サンドイッチだよ」
「あんたほんと大丈夫なの〜……」
「劇薬むさぼってるわけじゃないんだから」
「なんだったの具は」
「昨日は〜。昨日の夜は、鮭焼いて、身をほぐして、それをパンの上に乗っけて、その上に刻んだディル、マヨネーズ、黒胡椒がりがりして、その上に湯がいたほうれん草てきとーに切って乗っけて、サンド」
「お魚たくさん食べるのはいいことだよ。いいお母さんになるよ」
「ハイカラでいいお母さんになれるかな」
「あっはっは。なれるよ〜」
「あんたしょっぱい味付けの魚ばっかじゃないの。大丈夫なのほんとに」
「大丈夫だよたぶん大丈夫だってもうほんとに」
 そうして数回の再接続を経て、ZOOMでの通話を終えた。立ち上がって、大きく伸びをして、最近YouTubeで見つけた肩甲骨周辺のストレッチ動画を思い出しながらやって、「たばこ煙草タバコだよほんとに〜〜〜」と歌うように言いながらキッチンに行って、ずっと我慢していた煙草に火をつけた。
 それが自宅待機最終日のわたしで、サンドイッチはもう作っていない。わたしの喫煙は後日、ZOOMでの通話中にあっけなくバレて、おかあさんは思ったより静かな反応で、おばあちゃんはやっぱりちょっと切なそうにしていた。わたしはサンドイッチの話をした。もう作っていないけど。嘘だけど。おばあちゃんのハイカラが聞きたかった。ハイカラね、とうれしそうに言ってほしかった。言ってくれた。切ない顔で。