光景/後景(2)
「いやびっくりしたよねえ……。専務なんて誰よりも早くメット被ってたからね」
「はやかったですよねえ」
「もうみんなミーティングどころじゃないから」
「もしもし、も……。もしもし」
「え、ちょっとほんとやばいっぽいよ」
「だめだ、ドコモはだめだ」
「ソフトバンクも無理っぽいっす」
「Twitter? なんて?」
「あ、もしもし、うん大丈夫。え、もしもし?」
「いや暑い。あっつい」
「やっぱauが最強なんだよ。これではっきりしたよ」
「私そのときお手洗いにいてさあ〜」
「ではその件は後日」
「まぁじで〜? やっば〜」
「ああもういいや! 公衆電話どこ!?」
「電車止まってるんだってさ」
「全滅?」
「全線全滅」
「震源地どこ?」
「あーなんかすごい脇汗出た」
「いやうちの携帯つながってるからね」
「いまのうちにマックとか行ったらだめかな」
「いいからちょっとここにいろ」
「ウィルコムなら繋がるんじゃね」
「なに? なに?」
「そこの人こちらへ! 落下物に気をつけて! 前へ!」
「福島」
「うん。うんいま青学の近く」
「俺久しぶりに実家の両親に電話したよ」
「午後の予定どうしましょうかね」
「あそこのビル見た?」
「一瞬、ほんとにあ、終わった、って思ったわ」
「萎え」
「こういうときどういう顔したらいいかわかんなくて気まずいよね」
「福島ぁ?」
「本がばっさばっさ落ちてきてほんとあせって」
「ちょ、やばいやばいタイムラインやばいやばい流れんのちょーはやい」
「7……」
「食器大丈夫かなあ」
「うわこれ今日帰れんの?」
「やっぱネズミとかさ、こういうの察知するんかな」
「鳥肌たってきた」
「携帯電池きれそう」
「福島ってどこだっけ」
「群馬の横だっけ」
「コンビニ行こう。はやく。行ったほうがいいよたぶん」
「ほんともうドコモなんなの!!」
「あ、どうもどうもすみません、お疲れ様です」
「眠い」
「まぶしい」
「あー電池切れた」
「とっさだったよ」
「『【緊急】電話の使用を極力控えてください。被災地の方に少しでも回線を開けてください』だって。Twitterで」
「メットをこう。バッて。バッ」
「いえいえとんでもない」
「もう徹夜三日目なのにこれはきついわあ」
「今日?」
「なーんかもーつかれたよー」
「さっきはありがとうございました」
「あうんの呼吸ってやつでしたね」
「はあ」
「なんでこんなときに非通知着信がくるんだよ」
「あれ、あれ無い、あれ無いあれ無い財布がない……」
「すげえな、もうデマとか出てんのな」
「東北? まじで?」
「ええっ? なにい? 聞こえないんだけど!?」
「部長汗やばいっすね」
「いつかいつかとは思っていたよ」
「いや不安を煽るんじゃねぇ」
「今度はauが繋がんねえじゃん」
「ビルまだ揺れてる」
「なえぽよじゃん」
「なんもねぇ〜」
「渋谷でお泊りとか」
「あああああ」
「カラ館もう満員。相部屋ならいけるって」
「ローソンなんもなかったんやけどさ。文房具の試し書きんとこに『さしすせじしん たちつてつなみ』って」
「いやでもほんとにありがとうございました」
「なえるわ」
「ぐらっときたね」
「人いすぎマジ」